山本 西荻は「おひとり様女性にとっては住み心地が良い、男性にとっては出世の難しくなる、ゆるい町」と言われています。それを見ると町には男性的な町、女性的な町があるように見えますが?
下川 企業にも法人格があるように、町にもジェンダーがあることは確かですね。これまで私は池袋や下関、多摩地区などに住んでみて地域コミュニティに関わってきましたが、池袋と多摩地区ではまったく住み心地が違う。
山本 下川先生、下関に住んでいた頃、盛んに食べ物がおいしいという話をしてましたね。
下川 刺身が本当に美味しかった。地方では豊かな食生活が送れますが、都会では素材の良い物が少ない。
山本 でも、都会は地方にはない種類のレストランがたくさんあるでしょう。エスニックの店とか。
下川 東京でも文化的な町に行くといろいろな料理を味わうことができますが、郊外にはチェーン店しかない。以前、首都大学東京がある南大沢地区の地域コミュニティについて調査を行ったことがあるのですが、新興住宅地である南大沢は個人店が少なかった。街道沿いにはあるのはほとんどが誰でも知っているチェーン店です。そのような地域ではノミニケーションができない。
山本 西荻はチェーン店が根付かない町として有名です。個人が経営する美味しい店があるから、皆、そっちに流れてしまう。ある意味、ノミニケーションが成り立っている。町を歩いていると誰か知っている人に出合う村のような雰囲気があります。
下川 西荻は都会と田舎が共存しているようなニュートラルな町ですね。
山本 この前、住みたい町ランキング上位の武蔵小杉に行ったのですが、高層マンションの地域と以前の町との調和が取れていない感じがしました。
下川 急速に開発された町はアンバランスですね。
山本 西荻は地元感が強いから、急速な開発ができません。個人単位で町が変容する。
下川 企業が開発する町と個人が開発する町の違いですね。
山本 先日、建築家の知人と話をしていたら、「六本木ヒルズから始まったタワーマンションブームは終わりつつある。今からは、5階くらいの庭付きマンションが流行る」と言っていました。建物や町にも時代によって流行があるのですね。
下川 1990年代までは一戸建てに憧れる人が多かったから多摩地区などの開発も盛んに行われた。2010年代になるとタワーマンションブームになり、都心回帰が起こった。少し前まで一戸建て住宅の憧れの地だった世田谷区は身近な商店街が消えて住みにくくなったといわれています。
山本 町には高層の町と平面的な町があります。人気の町、吉祥寺は建物制限があるのでタワーマンションは立てられない。
下川 タワーマンションはシンボリックです。男性的な感じ。一方、低層の住宅地は女性的です。
山本 ITバブルが起こった2000年頃から、先端機構を備えたタワーマンションブームが起こりました。IТ技術が蔓延するとタワーマンションの魅力も薄れてきた。
下川 流行で町の開発をすると住宅と商店街、生活と仕事とのバランスが悪くなりますね。買い物をするのに不便さも感じる。
山本 ところで、西荻は「おひとり様女性にとっては住み心地が良い」町ですが、セクハラ問題を起こした財務省のある霞が関などは男性的な町なのですかね。
下川 他の先進国に比べると日本の官僚機構は男性主導です。女性の政治家や官僚も少ない。だから町自体が男性的な雰囲気になる。
山本 霞が関などに生活感などありませんね。「大臣や官僚は庶民感覚がない」と言われますが、生活感のない空間に滞在すればするほど、庶民の感覚と乖離します。杉並区は主婦層が社会運動をするような生活の町だから女性的だ。
下川 そういえば、「保育園落ちた 日本死ね」と発信した女性は吉祥寺に住んでいます。
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