山本 今日はソウル出身の呉在雄(37歳)をお招きして、「韓国と日本の文化比較」について対談します。呉さんは韓国の東国大学を卒業、IT企業でシステムエンジニアとして働いた後、7年前に来日、東京工芸大学写真科で写真を学んでいます。呉さんは日本に魅了されたきっかけは、「空が広いな」ということだったのですよね。
呉 ご存知のように朝鮮半島は山が多い半島です。ですから平野が少ない。日本に来て、最初に思ったことは空が広いなということでした。それが魅力的で……。
山本 日本は山岳地帯から土砂が流れて砂洲を作ります。16世紀以降、発展した町は江戸も含めて埋め立てされた砂洲の町です。しかし、古代朝鮮の檀君や朱蒙の神話を読むと、祖先が騎馬民族国家だったことがわかります。日本は海洋国家なのでオノコロ島の創設から神話が始まります。建国神話が異なっている。
呉 朝鮮も海洋国家です。紀元前後、楽浪郡周辺で王氏は漢と海洋貿易を行っていました。
山本 現在でも38度線付近の黄海で中国漁船と韓国警備船の衝突が起こって問題になっていますね。
呉 朝鮮の「鮮」の文字を見ると「魚」と「羊」からできています。これは古代から朝鮮人が海で魚をとっていた証拠です。
山本 韓国に松菊里古墳という有名な古墳群があります。この遺跡で最初に住んでいた騎馬民族が海洋民族に襲われた痕跡が発見されました。騎馬民族は方形の家に住んでいたのですが、そこが焼き払われた後、円形の家に変わる。円形の家は後に松菊里型住居として九州に伝わります。檀君の「壇」は方形ですね。現在の中国吉林省集安市に古代朝鮮を代表する高句麗・長寿王の墓があります。あれを見ると方形、段々のピラミッドです。
呉 朝鮮半島には石でできた支石墓(ドルメン)が多数、存在しています。ドルメンの西限はフランスのカルナックです。騎馬民族である古代朝鮮民族はユーラシア大陸を縦横無尽に行き来していた可能性がありますね。日本にも支石墓があると聞きましたが……。
山本 支石墓は福岡県の糸島半島で見つかっているので、古代朝鮮人が九州に渡ってきた証拠になりますね。南型支石墓です。
呉 日本は朝鮮と比べると石の文化が少ないと思えます。
山本 日本列島は地震が多いので石積みをしません。それが7世紀、白村江の戦いで日本に亡命してきた百済人が石の山城を築いた。岡山県の鬼ノ城、福岡県の大野城などがその代表です。
呉 韓国には山城がたくさんあります。敵が襲ってくると皆で山城に逃げ込んだ。
山本 戦国時代になると日本でも山城が発展します。戦国時代後期、石積を基礎とした城郭が現れます。石積みの方法をみると、あきらかに渡来人たちが築いた形跡が見てとれる。ところで、呉さんが唐の将軍の末裔だとうかがいましたが?
呉 朝鮮には「族譜」という文献があります。それを見ると自分の祖先がわかります。私の祖先は唐の将軍で、その時代に朝鮮半島に移住しました。
山本 呉という苗字は朝鮮では珍しいですね。
呉 朝鮮には約250の名字があるといわれています。韓国は金姓が多い。李、朴、崔、鄭がそれに続きますが、5つの姓が朝鮮民族の半数を占める。ですから呉という名字は珍しい。
山本 朝鮮では苗字が同じだと恋心も急に冷めると聞きましたが?
呉 朝鮮では姓字と名前を見ると、その人の立場が判明します。私の親族は、私の名前を見るとあの家の何番目の男子だということがすぐにわかる。
山本 日本では考えられないことですね。最近、日本では欧米風の発音に漢字をあてる名前が流行しています。それを見ると欧米人か、と思ってしまう(笑)。
呉 朝鮮人は儒教を大切にしているので姓や名字を大切にします。
山本 親族関係を煩わしいと思ったことはないのですか?
呉 面倒なこともあります。韓国では一人で飲み屋にいけない。一人で行くと友達にない変な人だと勘繰られる。しかし、濃厚な人間関係は子供の頃から、それが当たり前だと思っていたので違和感はありません。
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