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左右非対称、ゆがみの美
[2026/01/31]

今から十数年前、山田芳裕の漫画「へうげもの」が人気を博しました。この漫画の主人公は桃山時代の茶人・古田織部。一般的に戦国、桃山時代の物語は信長、秀吉、家康にスポットを当てる作品が多いのですが、この漫画は茶人の織部を主人公にした珍しい漫画でした。
桃山時代の茶人といえば千利休、古田織部、小堀遠州の三人が有名です。それぞれが独自の美意識を持って多くの作品をプロデュースしています。利休は静、織部は動、遠州は様式美を追求した茶人だったということができます。
写真は江戸時代初期の丹波焼の壺と大正時代に作られた織部焼の小服茶碗。丹波焼の壺は口の部分が大きくゆがんでいます。この時代の代表的な茶道具に藤堂伊賀の花瓶、水差しなどがありますが、それらを見ると藤堂高虎や古田織部が動的な動きを作品に取り入れて美を表現しようとしたことがわかります。
一方で古田織部はゆがみの美の他、緑釉と鉄釉を使った食器をプロデュースしています。これらの作品はペルシャ陶器や明三彩の影響を受けて創作されたという研究もあります。しかし、ペルシャ陶器や明三彩作品にはゆがみがないので織部焼は織部が創造した和風独自の美ということもできるでしょう。
一般的に、茶道は「侘び寂び」を表現する芸術だと言われますが、織部は「侘び寂び」よりも人がリラックスできる笑い「剽げる(へいげる)」や「洒落」を持ち込みました。丹波焼のゆがんだ壺を観ていると、どこかにユーモラスさを感じることができるし、小服茶碗からは洒落を感じることができます。
ちなみに、丹波焼の壺が作られた同時代、西洋ではバロック美術が流行していました。バロック芸術の特徴の一つに、人々の感情に強く訴えかけるダイナミックな動き、エネルギーを感じさせる表現があります。もし織部が西洋のバロック芸術を知っていたとしたら…。ペルシャ陶器や明三彩、バロック芸術などを総合して考えると古田織部という武将は当時、一級の国際的な視野を持った茶人だったということができるでしょう。
古田織部は、大坂夏の陣で切腹をしました。それと同時の戦国の世は終わり、世の中から「剽げる(へいげる)」行為も消滅します。
日本でも西洋でも、同じ時代に歪みの美が流行しているのは面白いですね。

丹波焼壺 高さ 約17cm/胴径 約23〜24.4cm
織部焼茶碗 口径 約9.3cm/高さ 約8.3cm

御売約、ありがとうございました


彦根の湖東焼
[2026/01/24]

彦根藩は、徳川四天王の一人・井伊直政の子孫が治めた藩です。慶長11年(1606年)、彦根に直政の子・井伊直継によって彦根城が作られ、城は現在、国宝となっています。彦根は関ヶ原の戦いまで豊臣家の家臣・石田三成が佐和山城を築いた重要拠点で、この地を守ることによって徳川政権は西へのにらみを利かせました。
写真は、湖東焼の鉄釉で鳳凰を描いた片口。湖東焼は1829年(文政12年)、滋賀県彦根城下に開かれた窯で、幕末期に大老だった井伊直弼によって名声が広まった焼物です。井伊直弼自身、茶道の造詣が深く、茶道具の良品を湖東焼で製作させています。また、直弼時代に作られた九谷風の磁器作品は精巧で、それを観ると湖東焼の実力を知ることができます。 この作品は直弼の前時代に作られた湖東焼の片口の鉢。湖東焼は1829年(文政12年)、井伊直弼の兄・直亮の時代に彦根城下に開かれた窯です。湖東焼といえば直弼時代の磁器のイメージが強いのですが、本作は直亮時代に作られた作品。 これまで湖東焼の磁器は多数、売買しましたが、陶器で「湖東」銘のある作品を扱えることは稀です。本作を見ると彦根藩でも茶道が盛んだったことがわかります。勇猛果敢な井伊家は赤備えの武具で有名ですが、城や武具だけではなく茶道にも長けていたようです。平時の武士たちは文化的な教養を深めて人間性を充実させたのでしょう。湖東焼に注目すると井伊家の文化の一端を知ることができます。

口径 約14.5〜15.6cm/高さ 約8.6cm

購入をご希望の方はこちらから

彦根城 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BD%A6%E6%A0%B9%E5%B8%82#/media/%E3%83%95%E3%82%
A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Hikone_Castle_and_Sakura2_DSCN3761_20070410.JPG


抹茶ブームと茶道具
[2026/01/17]

インバウンドが拡大し、数年前から外国人の間で抹茶ブームが起こっています。京都宇治の茶屋に外国人観光客が押し寄せ、抹茶の他、抹茶アイスや抹茶菓子などを楽しんでいます。また、パリでは抹茶ブームの影響で茶道ブームが起きています。このような現象は抹茶が型を重んじる茶道から解放されたからだと分析できます。戦前まで茶道は裕福な人の趣味でしたが、戦後は婦人層のたしなみとなりました。
茶道は高度経済成長期と共に興隆し、茶道具屋が増え、新しい茶道具の大量生産が始まりました。2010年頃までは、ある古美術業者の交換会に行っていたのですが、毎回、稽古用の茶道具が大量に出品されるのでうんざりして、一時行くのを止めた記憶があります。一方で私自身は茶道具が好きなので機会があれば古い茶道具を購入していました。古い茶道具には雑器にはない美術品としての魅力があります。幸い、仙遊洞のお客様は茶道を習っていなくても、茶道具を古美術品として購入してくださる方が多かったので商売をしていても楽しかったことも覚えています。
かつて古美術蒐集家の青山次郎氏は、茶道は良い道具を収集しなければ理解できないと唯物的な感想を述べていました。桃山時代の名物茶道具を横目にしながら、茶道具集めはお金がないとできないと収集を止めた古美術商としては、同感できる言葉です。最近、全体的に茶道人口が減ったので茶道具の名作を適正価格で購入できる機会が増えました。
写真は美濃焼志野の香合と高取焼の花瓶、木原窯の茶碗。どれも個性的な茶道具です。このクラスの作品だと茶道を気楽に楽しむことができます。茶道具も骨董品として見ると作品の持つ本来の魅力を感じることができるでしょう。これからは皆様も気楽に抹茶を楽しんでください。

香合 横幅 約5.8×5.6cm/高さ 約4.1cm
茶碗 口径 約10.4cm/高さ 約7cm
花入 高さ 約29.3cm/口径 約12cm

花入の購入をご希望の方はこちらから
香合、茶碗 御売約、ありがとうございました


陶器から磁器への時代の移行期
[2026/01/10]

1月4日(日)からNHK大河ドラマ「豊臣兄弟」が始まりました。主人公は豊臣秀吉の弟・豊臣秀長。これまで秀吉のドラマは多数製作されていますが、秀長が主人公のドラマは初めてです。最近、天下人ではなく補佐官や敗者の歴史観にスポットが当てられるのは歴史ファンとしては楽しいことです。
写真は唐津焼と初期伊万里焼の陶片。16世紀後期と17世紀前半に製作された作品です。唐津の陶片が作られた時代、秀吉は朝鮮に出兵、その時、多くの朝鮮人陶工を日本に連行しました。朝鮮人陶工の移住は、その後の日本の陶芸に大きな影響を与えますが、中でも李三平が日本で初めて磁器を製作したことは特筆すべき出来事でした。
写真の作品の面白いのは初期伊万里焼の陶片に「日」の文字が描かれていることです。「日」は日本を示す銘だと考えられます。初期伊万里焼に「日」の文字が採用されたのは、日本で磁器を生成した記念だったのではないかと想像しています。中世から近代に変化する時代、陶芸も陶器から磁器へ転換したのでしょう。
ちなみに、江戸時代初期、徳川政権は豊臣政権が半島から連れてきた朝鮮人を母国に返しました。儒者、学者は朝鮮に帰国したのですが、多くの陶工は日本に残りました。彼らは各藩の召し抱えとなり、各地(萩焼、唐津焼など)で陶芸の基礎を作ります。朝鮮人陶工が日本に残った理由は、日本人が技術を持った陶芸家たちを尊敬していたからです。技術者を重んじる日本人気質は現在も続いています。
400年前の陶片を見ながら歴史に思いを馳せると楽しいですね。

唐津陶片 口径 約9〜10cm/高さ 約2.2〜3.3cm
初期伊万里陶片 口径 約10〜14.3cm/高さ 約3cm

唐津陶片の購入をご希望の方はこちらから
初期伊万里陶片の購入をご希望の方はこちらから


お正月の吉祥
[2026/01/03]

あけましておめでとうございます。

あわただしい師走も過ぎ、年が明けるとゆったりとした気分に浸ることができます。仙遊洞は久々の休日、このような時期があるとリフレッシュできます。
写真は伊万里焼の初日の出文、若松文、松文の皿。製作年代は異なるのですが、お正月にふさわしい作品です。初日の出を見て新鮮な気持ちになり、太陽を浴びた若松が大きな松に育つ、今年はそのような1年にしたいと考えて出品しました。
年末、テレビでは今年一年を振り返る番組を放送していました。その中でも物価高は切実な問題のようです。ちなみに、古美術商の私としては生活物価の高低よりもいかに良い古美術品に巡り合えるかどうかが問題。仕事で失敗し、ややこしい人間関係でふさぎ込む時もありますが、好きな古美術品を眺めていれば癒され、次の問題に立ち向かう気力がわいてきます。実際に昨年、私も問題を抱えていた時に好きな古美術品と接しているうちに気力や体力がよみがえってきました。仙遊洞は今年も皆様にそのような商品を紹介していきたいと思っています。

皆様の希望(若松)が太陽の光(夫婦岩に昇る)を浴びて、大きく(松)育ちますように。

2026年も、よろしくお願いいたします。

二見が浦 尺皿 口径 約28cm/高さ 約4.5cm
松の木 尺皿 口径 約31.1cm/高さ 約5.7cm
藍九谷 若松皿 口径 約18cm/高さ 約3.1cm

御売約、ありがとうございました

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