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萩の花
[2025/09/27]

毎年、この時期になると秋の七草と中秋の名月の話題になります。
くっきりと空に浮かぶ満月の夜に、野原で虫の声を聞くと秋が来た感じがします。今年の中秋の名月は10月6日(月)です。
写真は平戸焼の染付色絵で萩と蝶を描いた徳利。かわいらしい絵付けの作品です。萩は「万葉集」の中に登場する秋の七草のうちで一位の花。古代の日本人も、萩に秋の季節感を感じていたことがわかります。「高円の野辺の秋萩な散りそね君が形見に見つつ偲はむ」など、歌を見ると萩と恋を関連させた歌が多いことに気づきます。秋の寂しさが一層、失恋を深く感じさせるのでしょう。
歌だけではなく、絵画や古美術品にも萩の図は数多く使用されています。他の秋の七草も採用されていますが、どれも風に揺れる儚げな草花。繊細な感性を持つ日本人に秋の七草はフィットしているのかもしれません。
ところで、萩といえば仙台銘菓の「萩の月」。丸い形をしたお菓子です。バブル期に仙台で食べたのですが、初めて食べた時の感動は今でも忘れられません。あれから30年が経ち、全国的に知られる銘菓となりました。ちなみに「萩の月」は、宮城野に浮かぶ名月に例えて命名されたそうです。私の故郷の広島には「もみじ饅頭」がありますが、「萩の月」も「もみじ饅頭」も秋にちなんだ銘菓。お茶と一緒に秋の銘菓をいただきながら、古美術品を鑑賞すると充実した時間を楽しめそうです。

高さ 約22cm/胴径 約13.5cm

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https://www.photo-ac.com/main/detail/22140877/1#goog_rewarded


滝の思い出
[2025/09/20]

9月下旬になって猛暑も一段落しました。まだまだ暑い日が続きそうですが、少しは過ごしやすくなる気がします。
写真は竹ノ下旧俊の「瀑布之図」。滝と文人を描いた爽やかな日本画です。この作品を見た時、奥多摩にある秋川渓谷の「払沢の滝(ほっさわの滝)」のことを思い出しました。払沢の滝は東京都で唯一「日本の滝百選」に選ばれている滝です。高さ23メートルの中規模の滝ですが、大学時代の私に自然とのふれあいの楽しさを教えてくれた滝です。1980年頃の払沢の滝は現在のように観光地にもなっておらず、人もまばらな景勝地でした。この滝の近くには神戸岩という神秘的な岩もあり、秋川渓谷は私にとって思い出深い渓谷となりました。
現在、私は古美術商になり滝が描かれた軸を時々、扱っています。滝作品には那智の滝など名瀑を描いた作品が多いのですが、竹ノ下旧俊の「瀑布之図」はどちらかというと文人の理想を描いた作品で、景勝地を描いた作品とは異なっています。文人画の理想を描いた滝は、名声よりも隠遁、自然との触れ合いを主題にした作品が多数あります。最近、インバウンドで多くの外国人観光客が名瀑を訪れていますが、それは文人画の世界とは異なるものでしょう。最近は払沢の滝も有名になり、多くの観光客が訪れるようになったと聞きました。逆に言うと、文人が理想とした世界は名声、名所とは異なる世界で観光とは無縁の世界でしょう。日本には文人の理想とする自然との触れ合いを提供してくれる自然がまだ沢山あります。それを思い出させてくれるのも古美術品と接する楽しみの一つです。

本紙サイズ 縦横 116cm×42cm
軸サイズ 縦横 185cm×60.5cm

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払沢の滝
https://www.vill.hinohara.tokyo.jp/0000001900.html


英雄は、少女を救う消防士
[2025/09/13]

最近、クラシック音楽を聞き直しています。その中でもシューベルトが最近のお気に入りです。若い頃はウィーン系の音楽家よりも、ショパン、ドビッシー、サティなどフランス関連の作曲家が好きだったのですが、最近は歳を取ったせいか堅実なウィーン派の音楽も良いなと思うようになりました。
写真の作品はF・ミシャールの「少女を救出する消防士像」、世紀末のフランス彫刻です。作風はロマン派彫刻に属していますが、題材が生活に関連した作品です。
世紀末、フランスは経済的に豊かなベルエポックの時代、人々の関心は外交よりも内政に向いていました。ですから、この作品を製作した彫刻家も題材を神話や権力者ではなく、庶民的な消防士を英雄に取り上げたのでしょう。
ところでブログの最初にシューベルトを出したのは、シューベルトから人の感情や生活感を主題にしたロマン派音楽が始まったからです。当時、フランスはナポレオン主義が敗北した時代。ナポレオン時代は英雄や神話を題材にしたアカデミックな彫刻が多数製作されましたが、ベルエポックの時代になるとその主題は英雄から庶民に移行します。「少女を救出する消防士像」では、皇帝ではなく市民である消防士が英雄として扱われています。さらに想像を巡らせると、救われた女性は庶民の象徴、個人の尊厳でしょう。作風がロマン派でも、時代によって題材が変化するのが面白いですね。一つの美術品から、あれこれ想像を巡らせることができるのが古美術品と付き合う楽しみの一つです。

高さ 約54.5cm/横幅 約19cm/奥行 約23cm

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亀山焼と砥部焼
[2025/09/06]

駆け出しの古美術商だった時代(1990年代)、私は磁器作品が有田か瀬戸製だと信じていました。伊万里焼を扱う専門店の先輩に「これはどこで作られたのですか?」と聞くと、帰ってくる答えは伊万里、瀬戸、京都、九谷でした。あれから30年が経ち、多くの磁器作品を扱うようになって、少しずつ産地の違いが判別できるようになりました。陶器に比べて磁器は使用されている土の判別が難しいので産地を特定するのは難しいのですが、文献の研究や体験を積み重ねるうちに朧気ながら産地の判別ができるようになった気がします。写真は亀山焼の染付龍鳳凰唐草十六角皿と砥部焼の染付唐草三段重。どちらも1990年頃には伊万里焼として流通していた作品です。
磁器作品の鑑定は描かれた柄や伊万里焼との比較から産地を判定するのですが、両作品には類似した文献資料があるのでそれを参考に鑑定ができました。素人の方は産地にこだわらないのでしょうが、古美術商としては扱う商品の産地をなるべく確定して、お客様に説明したいと思っています。鑑定には不明な点が多いので間違いもありますが、7割くらいは産地の判別は可能だと考えています。両作品とも伊万里焼にはない独特の雰囲気があります。古美術品と接する楽しさは時代の雰囲気を味わうことでもありますので、産地の判別はともかく、その雰囲気を存分に堪能してください。

(左)口径 約24.5cm/高さ 約4.7cm
(右)口径 約9.2cm/高さ 約11.5cm

御売約、ありがとうございました

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