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箱書きの大切さ
[2025/06/28]

写真は、千家十職の七代中川浄益(1796年〜1859年、京都生まれ)が作った遠州形透彫杓立です。この作品を見た時、作者も時代もわからなかったので、「いったいこれは何に使うものだろう? 花活けかな?」と疑問を持ちました。その後、箱のふたに書いてある書付を見て、これが遠州好みの杓立であることがわかりました。しかし、この杓立、あまりに斬新すぎます。美術画廊に飾っておくと、多くの人は現代彫刻の作品だと思うでしょう。それが江戸時代に製作された作品なので驚きです。一般的に茶道は昔の形を模倣した作品が多いので、このような作品に出会うと茶道の異なった面に接することができます。先々週、出品した坂高麗座衛門の水差もこの杓立のような茶道の独創性に触れることができる作品です。

ところでこの杓立、箱書きが付いているので杓立であるとわかったのですが、もし箱書きがなければ…。古美術品の業者交換会に行くと、箱が紛失した作品が多数出品されます。私は作品本位で商品を購入するタイプなので箱がなくても意に介しませんが、世の中には中身は偽物でも箱書きがあれば本物だと信じる迷コレクターがたくさんいます。業者の中にはそのようなコレクターに向けて偽物の箱書きのある箱を作って販売する人さえいます。中身よりも偽物の箱書きを優先する古美術商は嫌だなと感じるのですが、今回は箱書きが頼りだったので、箱書きの大切さを再認識した次第です。杓立としても斬新、オブジェとしても美しい作品。用途は別にして優れた作品には共通の美があります。

高さ 約17.6cm/胴径 約7.3cm

御売約、ありがとうございました

伊万里焼 染付大深鉢
[2025/06/21]

週半ばから夏日が続いています。6月中旬なのにこの暑さ。今年の夏も暑くなりそうです。
写真は伊万里焼の染付大深鉢。迫力のある大きな鉢です。
これまで、このような大鉢を数回扱いましたが、その度にどのような使用目的で製作されたのだろうと疑問がわきました。金魚、めだか鉢にしては口径が狭い。料理を盛るには深いし、手水鉢にしては高級すぎる。当時は現在のように水道をひねれば水が出る時代ではないので飲み水をためる大型の水差しだったと考えられるのですが、そうであれば本作には木の蓋などが付いていたのでしょう。
ところで17世紀後半、オランダにあった東インド会社は長崎の出島から伊万里焼をヨーロッパに輸出、莫大な利益を上げていました。大型の色絵の沈香壺などが輸出され、ザクセン王アウグストスの伊万里焼コレクションなどは有名です。本作のような大鉢は日本の古美術市場ではあまり見かけないので、もしかしたら国内向け作品というよりも輸出用に製作された作品だったかもしれません。ヨーロッパ人が茶道を知っているとは思えないので、本作を大きな水差しだとは思わなかったでしょう。どちらかといえば彼らはインテリア、調度品と考えていた。国内向けの大型水差か輸出用の調度品か、何の目的で作られたかは不明ですが、いずれにせよ当時のブランド品、高級品だったことは間違いないでしょう。これから暑い夏が始まります。皆様、十分な水分補給をしてください。

口径 約30.5cm/高さ 約22.3cm

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八代坂高麗左衛門 双耳水差し
[2025/06/14]

八代坂高麗左衛門作「双耳水差し」

八代坂高麗左衛門作「唐人笛茶碗」

チャルメラ(唐人笛)


写真は、八代坂高麗左衛門(1796年 〜 1877年、松翁)が作った双耳水差しと坂高麗座衛門窯のサイトに掲載されている「唐人笛茶碗」です。この水差を見た時、変な形をした水差だなという印象を持ちました。唐人笛茶碗は、江戸時代後期に流行した唐人が吹くラッパ(チャルメラ)の形から命名された茶碗です。下記に掲載したチャルメラのベルの形と比べると確かに形が似ています。一般的に陶芸家は型どおりの茶道具を作る傾向が強いので、本当にチャルメラを見て本作を作ったのだろうかと疑問を持った次第です。
坂高麗座衛門窯のサイトには唐人笛茶碗の解説が次のように書かれています。「高台裏に、八十歳のときにこれを製作した旨の釘彫が残されています。逆算すると明治三年頃の作となりますが、時代がまさに大きく変わろうとする刹那、胸中思うところがあって作った実験作であったのかもしれません。深さのある特異な形状で、表面に施された三島手の紋様は面ごとに異なるパターンが施されています。」
これを読むと、激動の時期に八代が茶道具を製作していたことがわかります。
ちなみに私の個人的な意見は、八代は江戸ガラスのリキュールグラス(左記)を見てこれらの作品を作ったのではないかと考えています。これはあくまでも想像ですが。いずれにせよヨーロッパや清から輸入された外国文化の影響を受けて作品が製作されたことが推測できます。伝統を重んじる茶道ですが、斬新な発想の作品もあるのが面白いですね。

高さ 約18.3cm/横幅 約20.3cm

https://www.sakakoraizaemon.co.jp/pastworks/
https://xyq.163.com/qysn/
https://www.metmuseum.org/art/collection/search/64923

御売約、ありがとうございました

李朝の民画風マジョリカの壺
[2025/06/07]

李朝の民画に出会ったのは1982年頃、大学時代です。その頃、李朝民画は日本ではあまり認知されていませんでした。このブログで以前書きましたが、大学の講義で李禹煥先生の話を聞いて、民画の存在を知りました。先生曰く、「李朝民画は美術教育を受けていない画家が描く絵画なので自由奔放に絵を描く。だからアカデミックな美術にはない魅力がある」。それから民画に興味を持ち、これまで多数の民画を扱いましたが最近はあまり市場で民画を見かけなくなりました。

写真はマジョリカの壺。この作品を見た時、「イランにも李朝民画のような作品はあるのだな」と驚きました。のびやかなタッチで民画のような色彩豊かな絵が壺に描かれています。特にアニメのように描かれた鳥の表現は秀逸。民画を立体にしたような感じの作品です。このような壺はもっと市場に出ていても良さそうなものですが、意外と出会うことはありません。
朝鮮人の陶工がイランに移住してこの作品を作ったのではないかとか、イラン人の陶工が李朝民画の影響を受けてこの壺を製作したのではとか、いろいろな想像ができます。また、なぜ朝鮮人は民画を描くのにこのような陶芸作品を作らなかったのだろうか、この壺を李朝の美術品と組み合わせて飾るとどのような雰囲気になるだろうかと空想しています。良い作品は様々な想像を掻き立ててくれます。李朝民画とマジョリカ壺の美に共通点を見出すことができて面白いですね。

高さ 約31.5cm/胴径 約22.5cm

https://spectrum.library.concordia.ca/id/eprint/987185/1/Kim_MA_F2020.pdf

御売約、ありがとうございました

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