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古美術品が話しかけてくる時
[2025/02/22]

東京都現代美術館で、坂本龍一(1952年〜2023年)の展覧会が開かれています。坂本さんはYМOや映画音楽などの分野で活躍した日本を代表する音楽家です。2月2日(日)に放送されたNHK日曜美術館で「坂本龍一展」特集に李禹煥氏が出演していて、それを見て私は大学時代(1984年)のことを思い出しました。私が李先生のキャンバス張りのバイトをしていた頃のことです。作業が終わって夕食時、先生が私に「今日、音楽をやっているという坂本という人に会ったのだけど、あれは誰なの?」と聞いてきました。当時、坂本さんはYМO、戦場のメリークリスマスに出演した相当な有名人だったのですが、先生はクラシック音楽以外に興味がなかったようで、坂本龍一という存在を知りませんでした。その時、私は坂本さんが有名人で、どのような音楽活動をしているのか説明しましたが、関心が薄いようで、「先生はクラシック音楽以外に関心がないのだな」と思ったことを覚えています。 李先生と最後に会ったのは2017年の冬。その時、先生は「先週、坂本さんと会って話をした。彼は…」と坂本さんの話を始めました。晩年、先生は坂本さんと懇意になり、最後のアルバム「12」のジャケットの絵も書いています。

写真は越前焼の壺。がっしりとした生活感のある作品です。生前、坂本さんは最新技術、デジタルを利用した音楽作品を作っていました。今回の展覧会もテクノロジーが屈指されたインスタレーションが出展されていますが、アナログ人間の私としてはデジタル作品よりも本作のような壺に心惹かれます。デジタルな部分がない方が、手作りの作品の言葉を聞き取りやすいのです。
古美術商をしていると時々、作品が語り掛けてくれる瞬間があります。この壺も今回、坂本さんの展覧会について、あれこれと語りかけてくれます。もちろん壺は人間ではないので、それは私の妄想なのですが自問自答をしているようで楽しい気持ちになります。
皆さんも古美術品が語りかけてくる時がありませんか?

高さ 約26.5cm/横幅 約25cm

御売約、ありがとうございました

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寒い冬は赤絵が良い
[2025/02/15]

相変わらず寒い日が続いています。このような寒い時期には温かい食事が身体を温めてくれます。食事は汁物や鍋料理が良いですが、視覚的には赤の入った陶磁器や漆器が気分を温めてくれます。夏は染付、冬は朱漆器や赤絵。昔から日本人は季節によって食器を使い分ける文化を持っていました。冷暖房のない時代、日本人は様々な工夫をして季節を楽しんだのですね。
写真は砥部焼染付氷烈梅文の茶碗と根来塗の隅切り盆。氷裂文は水面が凍る梅の季節(2月)のデザインですが、江戸時代の人たちは目に涼感を感じるために暑い夏に使用しました。エアコンのなかった江戸時代の人たちは寒い冬に本作を見たら寒気を感じたでしょう。一方、朱色の根来塗は赤い炎を見ているようで温かさを感じさせてくれます。盆上にお気に入りの酒器を乗せて熱燗でも飲んだら身体だけではなく心も温まるでしょう。
毎日、テレビニュースで雪が積もった北海道、東北、北陸の観光地に多くの外国人観光客が押し寄せている映像が映し出されます。雪下ろしをしなければならない人にすれば雪は厄介なものですが、赤道付近に住む外国人にとって雪景色は魅力的なアイテム。また、スキーヤーにとって日本のパウダースノーは理想的な雪質です。さらに観光にやってくる外国人のお楽しみといえば雪見の後の食事。冷たくなった身体を鍋や熱燗が温めてくれるでしょう。
ところで幕末期、尊王攘夷を叫んでいた江戸時代の人が現在の京都を見たらどのように感じるでしょう。きっと、「ここは日本なのか」と思うはずです。攘夷どころか、インバウンドで大騒ぎ。暑くても寒くても日本の観光人気は当分、続きそうです。

氷烈梅文茶碗 口径 約10.5cm/高さ 約8cm
隅切り盆 口径 約30.5cm×30.2cm/高さ 約2.7cm

氷烈梅文茶碗 御売約、ありがとうございました
隅切り盆の購入をご希望の方はこちらから


東北の民芸品 白岩焼 楢岡焼
[2025/02/08]

2月に入って寒気が入り、列島は荒れ模様の天気です。寒いのでこの時期は商売も奮いません。「にっぱち(2月と8月)」とはよく言ったもので、定給のサラリーマンと違い商売人にとっては厳しい季節です。
写真は白岩焼の片口と楢岡焼の甕。ともに秋田県の焼物です。私の旅行の楽しみの一つに「地元の民芸館を訪ねる」があります。各地の民芸館には陶器が飾ってあり、それを見ると地方の文化を感じることができます。白岩焼は角館、楢岡焼は大仙市の焼物でこの地域を旅していると「後三年の役」に関連する遺跡もあり、楽しみは尽きません。歴史と陶磁器、古物商にとってはたまらない瞬間です。しかし、旅行に行くのは春秋の行楽シーズン、2月に寒い地方への旅行はしません。2月の秋田県を想像すると、それだけで寒気がしてしまいますが、一方でこの時期に東北の雑器を見ていると「冬の東北の雪の気候が、陶工にこのような美しい陶器を作らせたのだろうな」と感じさせてくれます。 美しい藁灰釉を使った雑器は何といっても東北が一番。陶磁器のバラエティーさを出現させる日本の気候は本当に豊かですね。

楢岡焼甕 高さ 約23.5cm/胴径 約19cm
白岩焼片口 口径 約20cm/高さ 約10cm

購入をご希望の方はこちらから

https://www.photo-ac.com/main/detail/28859066


木彫 天神像 菅原道真
[2025/02/01]

2月になり本格的な受験シーズンが到来しました。我が家の受験は遠い昔の話ですが、テレビで受験のニュースが流れるとその当時の状況が蘇ってきます。受験生は神頼みでも良いので志望校に合格したい。その受験生が頼るのが学問の神様・菅原道真が祀られている天満宮、天神です。思い返すと私自身も中学受験の時、広島から福岡の太宰府天満宮に連れて行かれました。その時の記憶で残っているのは合格祈願より、美味しかった梅ヶ枝餅の味ばかり。寒い時期に食べる梅ヶ枝餅は本当においしいですね。その後、東京に出てきて子供の受験で行くのが湯島天神。受験のたびに子供を連れて湯島天神に祈願に行きました。
写真は木彫の天神像。武将のようなきりりとした表情をした作品です。本作が作られたのは江戸時代ですが、見ていると当時も人々も勉学に励んでいたことが想像できます。現在、大河ドラマ「べらぼう」が放映されています。その中で遊女たちが貸本を読むシーンがあります。これを見ると、日本人の識字率の高さを伺うことができます。そのお陰で明治維新以降の日本人の近代化は迅速に進めることができたのでしょう。ちなみに隣国の中国、韓国は科挙の国なので昔から日本とは比べものにならないほど受験戦争が激しいのですが、最近は大学を出ても就職できる学生が少なく若者に不満がたまっているとか。これを見ていると、どこの国の若者も大変だと感じます。

ところで、古美術商の私は現在も実学に励んでします。偽物を購入した時などはショックが大きく、商品についての学習を怠ることはできません。古美術の世界はきりがないので、いくつになっても知識不足を実感します。天神像を見ながら、「私は一生、学問を続けなければならないのでしょうか?」と問いかけると、「冬の後にはかならず春が来ます」と答えが返ってきたような気がしました。受験生の皆様、頑張ってください。

高さ 約19cm/横幅 約23.5cm

福岡県観光連盟提供

御売約、ありがとうございました

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