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ミクロとマクロの絵付け
[2024/08/25]

最近、夜、路地で虫が鳴いています。猛暑が続いていますが、虫の声を聞くと夏のピークが過ぎたことを感じます。写真の伊万里焼の向付は「かまきりと葉」。草むらや虫のいる小さな世界をデザインするのは日本的な感性です。向付を見ていると、草むらの小さな世界を感じることができます。大正李朝の徳利には蝶をねらうとかげが貼り付けされています。これはジャポネズム、アールヌーボーの影響を受けて作られた作品です。
虫と人の間にいるのは動物。写真のたぬきは我々よりも虫に近い世界で生きています。
一方、出石焼の壺に描かれている山水は普段、人が見ている世界です。さらに、それよりも大きな世界を描いているのは、志田窯の馬の目皿。馬の目が銀河、貝が恒星、氷烈が彗星を連想させます。7つの〇は北斗七星を表わしています。江戸時代は科学的な情報が少なかったはずですが、人々はミクロからマクロの世界を美術に表現するデザイン的発想を持っていました。これらの作品を見ると江戸時代の人々の想像力の豊かさを感じることができます。様々な世界を写し取って器に描く。陶芸の世界も侮れませんね。

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https://news.livedoor.com/article/image_detail/12837357/?img_id=12440472


伊万里焼 染付色絵 吉原花魁図 大皿
[2024/08/18]

ここ数か月のブログを読み返すと、1980年代の話題が多いことに気づきました。大学時代の話が多いはあの頃が一番、多感だったからでしょう。あれから40年経ち、自分は成長したと思いたいのですが、感性はあの時のまま。むしろ身体と共に感性も退化している感じがします。一方で古美術商のキャリアは積み重なり、自分の成長を感じることができます。
写真は明治時代に作られた吉原図の皿。一般的に図変わりの部類に入る作品で、男女の恋文や吉原の町を歩く花魁が描かれています。皿の下部に桜が描かれているので季節は春なのでしょう。春といえば青春の時代、一番、楽しい季節です。
この皿を見て、恋愛に夢中だった20代を思い出しました。そういえば高校時代、札幌の女の子と文通をしていましたが、文通なんて昔の話ですね。 当時、流行していたのがサザンオールスターズの曲。彼らは現役で頑張っていているので、サザンの歌を聞くと当時の記憶が蘇ってきます。ちなみに毎年、女の子にふられていたので記憶が蘇えるのは失恋の歌が中心ですが…。サザンオールスターズの「波乗りジョニー」は夏の恋愛を上手に表現した歌です。最初は「青い渚を走り 恋の季節がやってくる 夢と希望の大空に 君が待っている」ですが、夏休みが終わりに近づくと「やがて二人黙ってつれなくなって 心変わって愛は何故? 海啼く闇の真ん中で 月はおぼろ遥か遠く 秋が目醒めた」となります。夏休みは最後の時期が寂しいです。
今は女性との出会いはありませんが、多くの古美術品に出会うことはできそうなので、これからも楽しみです。

口径 約46.5cm/高さ 約6.5cm

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北陸の陶器
[2024/08/11]

大いに盛り上がったパリオリンピックが閉幕します。東京とパリでは8時間の時差があるのでスポーツ観戦で寝不足になった方も多かったと思います。それでも日本選手団の活躍もあって楽しい3週間でした。
ところで今日、日本は「山の日」、祝日です。オリンピックの閉会式と「山の日」が重なったので、フランスのバカンス事情に思いを馳せました。フランスの地形の特徴は広大な平野とアルプスのような高い山々、それと海。手軽に登れる低山がないので、フランス人は登山が好きな人以外、あまりトレッキングをしません。バカンスになるともっぱら海へ。日本は低山でも魅力的な山が多いのでトレッキングも盛ん。東京郊外の高雄山、陣馬山などは多くの人で賑わっています。外国人観光客が日本に来て山登りを楽しむのは日本の山は手軽に登ることができるからでしょう。
写真は、越中瀬戸焼蕎麦釉の徳利。この作品を見て、夏の立山を思い出しました。立山は富山県を代表する山で夏でも雪が残っています。徳利を撮影していると、首部の白釉が残雪、胴部が地面のように見えます。ちなみに、今回、出品している正院焼の青手九谷焼の小皿には能登半島から見た立山連峰が描かれています。古美術品を扱っていると空想の旅に出ることができ、残雪を想像すると涼しくなります。
ちなみに「山の日」が設定されるきっかけとなったのは1961年、読売新聞社が富山で主催した「立山大集会」。それから約60年経って「山の日」が制定されます。日本の山の魅力を再発見する目的で「山の日」が設定されました。古美術だけではなく、日本の山々も魅力的です。

越中瀬戸徳利の高さ 約29cm/胴径 約16.5cm
青手九谷焼小皿の口径 約11cm/高さ 約2cm

越中瀬戸徳利 御売約、ありがとうございました
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https://www.nikkei.com/article/DGXMZO47488140Y9A710C1962M00/
https://cafe-asunaro.com/732/


扇は日本人の発明品
[2024/08/04]

8月に入って猛暑日が続きます。連日、パリオリンピックの話題で持ち切り。8月7日には夏の高校野球全国大会も始まるので、今夏はスポーツ観戦の夏になりそうです。オリンピックの放送で大勢の日本人観客が扇を持っている姿が映ります。暑い夏には麦わら帽子、扇(うちわ)、かち割り氷の3点セットが必須。そこで今回、扇のデザインのある作品を出品しました。写真は伊万里焼、能佐山焼の扇がデザインされた磁器。エアコンのなかった江戸時代、扇は夏に涼を取るためのアイテムでした。昔は現在のように猛暑ではなかったので扇、打ち水、手拭いがあれば夏を過ごせたようです。
ちなみに折り畳み式の扇は日本で発明された可能性が高い製品だとか。それを知ったのは大学時代、韓国人の評論家、李御寧の日本文化論『「縮み」志向の日本人(1982年刊)』を読んだ時です。この本はコンパクト化の特異な日本人の特性をうまく表現した名著です。本の中で李はトランジスタラジオや扇、折詰弁当などを例に日本人のコンパクト志向を論じています。印象深かったのは、石川啄木の短歌「東海の小島の磯の白砂に われ泣きぬれて 蟹とたはむる」から、大きな世界から小さな世界に対象物を移動させていく日本人の感性を読み取ることができると論じた部分。今でも、その文章を読んだ時のことを覚えています。
時代は変わって令和時代。コンパクト化が得意だった日本人は半導体などナノレベルで世界的な競争に敗れて再生を期している状況です。伊万里焼に描かれた扇を見ながら、根付や金工品など小さな細工の技術を保持していたかつての日本人はどこに行ったのだろうと考えてしまいました。扇を仰ぐという目的でなく、儀礼や贈答、コミュニケーションの道具としても使用した日本人。古美術品に触れていると日本人が失った感性に触れることができるような気がします。

能佐山焼そば猪口の口径 約8.2cm/高さ 約5.7cm
扇唐草文六寸皿の口径 約18.4cm/高さ 約3cm
扇みじん唐草大皿の口径 約47cm/高さ 約8cm

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https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000151407


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