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伊万里焼 染付色絵金彩 瀟湘八景 皿一組
[2023/12/29]

2023年も残すところ、あと数日。コロナ禍も静まり日常が戻ってきた今年、皆様の一年はいかがだったでしょうか。今年の仙遊洞にはコロナ禍前のようにお客様が戻って来られたので楽しい一年を過ごすことができました。ありごとうございます。
本年最後のブログは伊万里焼の染付色絵金彩「瀟湘八景」の皿2枚。私は本作を九代柿右衛門(1776年~1836年)がプロデュースした作品だと考えています。
見込みには、冷泉為相(1747年~1799年、従一位右大臣)と庭田宰相中将重嗣(1757年~1831年、前大紊言従一位)の和歌がデザインされた珍しい色絵の皿です。京都の公家が注文した作品であることが、同時代人の公家の和歌を書いていることから想像できますが、このような作品は古美術商をしていてもほとんど出会うことのないものです。 京焼ならまだしも伊万里焼に公家の和歌が採用されていることには驚かされます。「瀟湘八景」は直接、年末年始には関わりありませんが、庭田宰相中将重嗣の和歌は「烟寺晩鐘(えんじばんしょう)」、「暮かかる霧よりつたふ鐘の音に遠方人は(も)道急ぐなり」。晩秋の歌であっても「道急ぐなり」は師走を感じさせてくれます。大晦日、除夜の鐘を聞きながら忙しかった2023年の気をお祓いください。
来年、皆様の2024年が良い年になりますように。

(大)口径 約30cm/高さ 約4.5cm
(小)口径 約23.8cm/高さ 約3cm

購入をご希望の方はこちらから

横山大観「烟寺晩鐘」
https://emuseum.nich.go.jp/detail?content_base_id=100289&content_part_id=001&content_pict_id=016&langId=ja&webView=null


池玉瀾 水墨画 牛と柳図
[2023/12/24]

先週、日本列島に寒波が到来、冬らしい気候になってきました。クリスマスの飾りが町に飾られ多くの人でにぎわっています。コロナ禍のない久しぶりの年末、やはり良いですね。
写真は江戸時代中期の文人画家、池大雅の妻・池玉瀾の「牛に柳図」です。クリスマスのブログがなぜ牛なのか多くの方は疑問に感じられるでしょう。しかし、古代ローマ時代、イエス・キリストが宗教活動をしていた時代、12月25日はミトラス教(牛信仰を行っていた人たち)のお祭りでした。ミトラス教はゾロアスター教の一派ですが、冬至を12月25日に定め、特に軍人と商人は牛のいけにえを神に捧げ太陽の復活を願いました。その信仰が日本に入ってきたのは飛鳥時代でした。伝播させたのは秦氏。現在、広隆寺にある弥勒菩薩(右手の指は牛の角を表わしています)を日本にもたらした氏族です。唐時代、長安に大秦寺(キリスト教ネストリウス派の教会)がありました。広隆寺のある太秦(うずまさ)の地吊を見ると、中国語のローマ(大秦)からきていることがわかります。その後、長安に留学した空海の登場によってキリスト教文化が京都にもたらされ、都は西洋の宗教をもとに創生された都となったのです。
写真の作品を描いた池玉蘭は八坂の祇園社のそばに住んでいました。御存じのように祇園社は牛頭大神を祀る神社です。7月に京都で開催される祇園祭は牛の角の象徴、三日月(船)を信仰する祭りです。だから山車は船の形をしています。本作は祇園祭の時期に飾るために製作された軸ですが、ルーツをたどれば古代ローマ時代の冬至、ミトラス教の牛祭りまでたどり着くことができます。ちなみにキリストの誕生日は4月。それがキリストの復活と太陽活動に復活が重なり、キリスト教の拡大に伴って12月25日がクリスマスとなりました。京都の歴史を紐解いていくと古代ローマ文化までつながるので面白いですね。

本紙サイズ 縦横 32cm×44.4cm
軸サイズ 縦横 131cm×56cm

御売約、ありがとうございました

https://ameblo.jp/kyo-angya/image-12808423653-15301176221.html


シャガール リトグラフ「ザブロン」
[2023/12/17]

12月16日(土)、関東の温度は25度、真夏日でした。街道沿いを歩くと10月下旬から11月上旬に黄葉の見頃を迎える銀杏並木がいまだに色づいている。それを見ると今は本当に12月なのだろうかと疑問を感じます。おかしいのは気候だけではなく、政治経済も同様。コロナ禍が終わったと思ったら、ウクライナ、パレスチナの戦争、日本ではジャニーズと自民党安部派の裏金問題、中国の経済上況、ニュースを見ると悲惨な光景ばかりが放映されるので気が滅入ります。このような時、私は古美術品に触れるようにしています。美しい作品を見ていると心が和み、気が安らぐ。写真のようなシャガールの作品も心を和ませてくれる美術品の一つです。
シャガールはユダヤ教からキリスト教に改宗した珍しい人物で、ユダヤ教徒から見ると彼は信仰する宗教を棄てた頭のおかしな画家としか映らないようです。このことは大阪大学教授の圀府寺司が著した『ユダヤ人と近代美術』(光文社新書 2016)や『ああ、誰がシャガールを理解したでしょうか? 二つの世界間を生き延びたイディッシュ文化の末裔』(大阪大学出版会 2011)に書かれています。この本は日本では珍しいユダヤ人芸術家について書かれた著作で、これを読むとユダヤ人の歴史や芸術感を知ることができます。
ところで、シャガールが本作を描いた1962年はアメリカとソ連が対立し、キューバ危機が起こった年。ナチスの迫害を逃れ、苦難の末にたどり着いた明るい大地と海のある南フランスの地で彼は何を思っていたのでしょう。 あれから60年経ちますが、相変わらず世界はアメリカとロシアの対立は続いたままです。戦争をする優秀な人たちよりも、戦争をしない馬鹿にされる画家の方に親しみを感じるのですが…。シャガールを理解すると人間への理解も深まるので面白いですね。

ピクチャーサイズ 縦横 約29.5cm×21.5cm
額サイズ 縦横 約55.5cm×44cm

御売約、ありがとうございました

https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334039011
https://honto.jp/netstore/pd-book_03495661.html


切込焼 染付 松竹梅文 御神酒徳利
[2023/12/10]

先週、東京都立美術館で開催されている「永遠の都ローマ展」に行きました。展示品にはコピー作品が多かったのですが、美術史の観点から都市としてのローマを考察するには面白い展覧会でした。建国されて以来、ローマ文明が世界の美術観をリードしているのは間違いありません。その流れは現代のローマたるアメリカが世界文化の発信地として君臨しているのに近いものがあります。
2つの文明に共通するのは力と物語。両方とも派手さと刺激を求める文化です。古美術でいうとテレビ番組「何でも鑑定団」などはその典型です。価格と物語の度合いが大きければ大きいほど注目を浴びる。それを古美術の世界だと多くの人が勘違いしているのは悲しいことですが…。

2023年12月12日(火)、つまり明後日ですが、この日は映画監督・小津安二郎の生誕120周年の誕生日と同時に60年目の命日です。大学時代から小津映画ファンの私は何度、鎌倉の円覚寺にある小津の墓に通ったことか。私の小津映画への愛情の深さは年齢を重ねれば重ねるほど深くなっていきます。
ところで最近、切込焼の染付作品を見ていると小津のモノクロ作品の美学と似ているのではないかと勝手に解釈しています。2つの共通点は物語を排除した存在の美学があること。小津の映画には黒澤映画のようなドラマチックさはなく、切込焼作品にも「何でも鑑定団」に出品できるような話題性もありません。
しかし、それらの作品を見ていると、私に日常の中に流れる時間と存在の関係性、美しさを教えてくれます。小津がワンカットの装飾の細部までこだわったように、写真の切込焼の御神酒徳利に描かれている絵付けの染付と余白とバランスは絶妙です。何も描かなくても愛情さえ行き届いていれば余白に美が宿る。古美術品に対する感覚は人それぞれですが、些細な作品でも、愛情のある美を見出した瞬間は格別ですね。

高さ 約22.5cm/胴径 約9.2cm

https://roma2023-24.jp/
https://natalie.mu/eiga/news/529758

御売約、ありがとうございました

白釉かけ流し徳利(高取焼)と寒竹菊鳥図(内山秀圃)
[2023/12/03]

先週、北日本は荒れた天気が続きました。北海道や東北ではドカ雪が降り、風速も30メートルを超えたようです。これから年末にかけて、東京も寒くなりそう。今年は風邪薬が上足しているとか。皆様、風邪をひかないように気をつけてください。
写真は白釉かけ流し徳利(高取焼)と寒竹菊鳥図(内山秀圃)。陶器と絵画作品ですが同じ冬の題材を用いています。
徳利をよく見ると胴部が竹になっており、そこに白い雪を表現した白釉がかかっています。一方の軸は雪の積もった竹の枝に鳥が止まり、雪の落ちる一瞬の緊張感が絵画で表されている。この2つの作品を見ていると創作方法の違いはあっても、日本人が季節感を表現しようとする感性を見て取ることができます。徳利に赤い寒椿を差して軸と一緒に床の間に飾ると、部屋の中はさらに冬の空気感が出るでしょう。年齢を重ねると寒くなるのは辛いのですが、暖かい部屋に美術品を飾って冬を楽しむこともできます。大人の遊びも楽しいですね。

徳利 高さ 約23cm/胴径 約14.5cm
掛軸 軸サイズ 縦横 183cm×54cm

御売約、ありがとうございました

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