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白と青の世界
[2025/05/17]

清朝の陶工たちは王侯貴族のために青、赤、黄色、白、黒など多くの単色陶磁を作っています。これは中国人が玉(石)を好む文化を持っていたからです。ロンドンにあった旧デヴィッド・パーシヴァル美術館に行くと、展示室の一角に単色陶磁を並べた部屋があり、それを見ると清朝の人たちが単色陶磁を重んじていたことがわかりました。旧デヴィッド・パーシヴァル美術館の作品は現在、大英博物館で見ることができます。
一方、日本では白磁以外の単色陶磁はあまり製作しませんでした。どちらかというと日本人は単色陶磁よりも絵付けをした染付磁器を好んでいました。残っているものを見ると日本人は絵画的センスに優れていたことが判ります。
写真は伊万里焼の瑠璃釉楕円皿、切込焼瑠璃釉の御神酒徳利、棚倉焼の白磁尊式、砥部焼の白磁徳利。日本各地の窯で製作された単色陶磁です。面白いのは清朝の単色陶磁と違って日本の陶磁器には釉薬のムラや変化があること。日本人陶工は清朝の陶工のように玉器を意識して陶磁器を製作しなかったのでしょう。自然と共に生活している日本人は、人工的で完璧な単色陶磁が好みに合わなかったようです。とはいえ、陶磁器製作に熱心な日本人は作品に多様性を持たせ様々な作品を作りました。写真の作品を見ると色は同じでもそれぞれに表情があります。清朝の単色陶磁は貴人たちの物ですが、日本の単色陶磁は庶民好みの作品だったようです。

(左)口径 約20cm×11.5cm/高さ 約4.5cm
(中左)高さ 約30.8cm/胴径 約13cm
(中右)高さ 約16.8cm/口径 約10.5cm
(右)高さ 約29.8cm/胴径 約19.5cm

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備前焼の花瓶から
[2025/05/10]

仙遊洞では現代美術と古美術の類似性について毎月、ブログをアップしています。
今回は備前焼の花瓶と現代美術の類似性についての記事です。写真を見れば3作品の類似性は一目でわかるはず。作品は3人の作家が作った作品です。備前焼の作家は不明ですが、黒いオブジェはドイツ人アーティスト、カール・ニコライの「アンチ(2004年)」、緑色の絵画は李禹煥の「第四の構造B(1969年の再現)」です。単純にいうと3作品は20世紀前半に流行した構造主義的作品といえるでしょう。この3作品を古い順に並べると「第四の構造B」、備前焼の花瓶、「アンチ」となります。時代も国も違うのに作品が美術的に類似するのは人類の美に対するDNAの基本構造が同じだからかもしれません。昔、現代美術の勉強をしていた私は現在、古美術商をしていますが、古美術品に出会ったときに時空を超えた美術に関して考察することが好きです。ちなみに、「アンチ」は旧石器時代の石器にも似ています。このように感じるのは私だけでしょうか。
ところで、2月22日のブログ「古美術品が話しかけてくる時」に李禹煥と坂本龍一のことを書いたのですが、李先生が坂本さんに興味を持ったのは映画『レヴェナント:蘇えりし者』を飛行機内で見て、その音楽に衝撃を受けた時だそうです。
「7年ほど前、飛行機の中で映画『レヴェナント』を見ました。坂本龍一さんが中咽頭(いんとう)がんの治療直後に音楽を担当した作品です。極限状態に置かれた人間が描かれていて、音の使われ方がちょっと普通じゃなかった。
 特に厳しい寒さの中の風の音が気になりました。帰国後にDVDを買って自宅でじっくり見直すと、やはり手が入っていた。どこに手を入れたか分からないくらい、ほんのわずかに。自然を呼び寄せたり、介入したりしていた。面白い。見事だなと思いました。(李禹煥)」
実はこの映画の映画音楽は上記のカール・ニコライが坂本龍一と一緒に作った曲です。カールは、アルヴァ・ノトという名前でミュージシャンとしても活動しているマルチ・アーチスト。芸術家というのは多彩ですが、共通性を持っています。さて、備前焼の作家は誰か不明なのですが、この作家も音楽的素養を持っていることは間違いないでしょう。実在する作品だけからではなく、縁を通して考察ができるのは面白いですね。

高さ 約26cm/横幅 約13cm角

https://www.shift.jp.org/ja/archives/2012/04/carsten_nicolai.html
https://note.com/takechihiromi/n/n3a16997f9ef0

御売約、ありがとうございました


大阪万国博覧会
[2025/05/03]

4月下旬からゴールデン・ウイークが始まりました。天気の良い日が続くので日本中は行楽日和です。
先週末、大阪万博に行ってきました。1970年の大阪万博の時、小学校3年生だった当時のことを思い出し、行く前からそわそわした気分になりました。歳を取ると人込みに行くのは嫌なのですが、生涯最後の万博だと思い行くことを決意、1970年の時のような小学生気分で万博会場に向かいました。
行った感想は久しぶりに「足が棒になった」ということです。会場が広いので歩く体力、パビリオンを見るのに並ぶ体力、チケット予約をする労力など様々な体力が必要です。今回の万博はデジタル技術の活用で「並ばない万博」を歌っています。しかし、実際にはアナログの行列で「並ぶ万博」。現代社会にデジタル技術が浸透しているように見えても実のところ、歩く、並ぶというアナログ行為が主体のイベントだと感じました。
私が行ったのはニンテンドー・ガンダム館、パソナ館、フランス館など10展示。特に印象に残ったのは夕方に開催されるサントリー、ダイキン提供の「青とアオと夜の虹のパレード」、大屋根リング、パソナ館のIPS細胞。この3つを観ただけでも大阪万博に行ってよかったと感じました。メディアは大阪万博の悪口ばかり言っていますが、メディア情報と体験では大きく違います。何でも実際に体験してみないと、素晴らしさは理解できませんね。
その他、印象に残ったのは親に連れられてきている子供や修学旅行生など若者たちの笑顔。彼らの笑顔を見ていると日本も捨てたものじゃないなと感じました。今回の万博は会期が終わるとすべて取り壊されます。そのことを考えながら会場を見ると、楽しい夢を見ているような気分になります。

ちなみに東京に帰って感じたことは、「仙遊洞自体、世界の古美術品があふれていて万博会場みたいだな」でした。写真はジョセフ・アーネのボヘミアガラスの花瓶。アーネは1873年のウィーン万博、1878年のフランス万博でガラス作品が優勝賞を受けた作家です。また、鉢の写真はペルシャの鉄絵スペード文鉢。元が成立し、東西交流が盛んになった頃の作品です。
万博に行かなくても、古美術品を身近に飾っていると、ちょっとした旅行気分に浸ることができます。日常の中に非日常的な古美術品を取り混む楽しさを今回の万博旅行で再認識できたような気がしました。




(左)高さ 約26.5cm/胴径 約10.8cm
(右)口径 約21cm/高さ 約7.6cm

ボヘミアガラス 御売約、ありがとうございました
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