このページは2019年4月6日(土)に行われた骨董講座を再現したものです。

第57回 アンコール講座D「シンボルと吉祥」

今回の骨董講座は「シンボルと吉祥」です。5年前、同じ内容の講座を行ったのですが、その時は超常現象研究家の秋山眞人さんが来てくれて対談を行ったのですが、今回はそれに新しい内容を含めて話してみたいと思います。
人間の精神活動が始まったのはネアンデルタール人(約20万年前〜2万数千年前)が死者を花畑に安置した時から始まると言われています。彼らは死者を美しい世界に送るために花畑を作った。そこに人間の時空の概念、精神性の萌芽を見ることができます。
4万年前、進化した新人クロマニヨン人が出現します。クロマニヨン人はアルタミラの洞窟内に牛や馬、手形などの優れた絵画を残しています。彼らが壁画を描いたことは人類が呪術、科学、装飾について活動を始めたことを物語っています。クロマニヨン人は水を怖がったネアンデルタール人と違って漁撈を行っています。海に近い3万年前の洞窟遺跡からは貝で作った首飾りが出土します。人類は漁撈によってタンパク質を取ることができるようになり、人の脳の構造が各段に進化します。壁画、首飾りなどの装飾品の出現は人類の進化の証拠です。日本人は昔から浜で採取した貝類をたくさん食べていました。多くの貝塚も残っています。大量の貝を食べていたので、日本人の脳が発達したという仮説もあります。
今日はシンボルについての話なのですが、クロマニヨン人は洞窟に手形絵画を描き、首飾りに貝を使っている。それがシンボルの始まりだと思われます。
人間にとって手は重要な道具です。手には5本の指がありますが、陰陽師の使う「五芒星」は手をデザインしたシンボルです。昔の人は手をかざして、敵や魔物を防いでいた。手の触覚が人類を発達させたと過言ではありません。
人類の進化の過程中に道具の発明があります、特に弓矢。大型獣から小型獣への獲物の変化が起こった時、弓矢を使うことによって、人類は「空間」を発見しました。それと同時期に太陽、月の星の運行を見て「時間」を発見する。暦の発明は王権につながります。日本では天皇が変わるたびに元号が変わります。織田信長は暦を作成する権利を得ようと試みたので暗殺されたという説もあります。
人類が最初に使ったシンボルは渦巻きと十字でした。渦巻は女性、有機、時間、現実的で、十字は男性、無機、空間、観念的なシンボルです。人類史において男性主導になったのは王権と文字が出現する紀元前3000年頃。それまで女性が人類を支配していました。感覚で言うと本能的な触覚、聴覚、臭覚から視覚、味覚が重要になった頃から男性主導の世界が始まります。宇宙人の代表であるグレータイプは目が大きい。これは目が知性を司ることを示唆しています。逆に口が小さくなるのは栄養分を飲料から取ることを示しています。
男性が社会的に主導権を取り始めた頃から部族社会が始まり、人々は部族のアイデンティティを確立するためにトーテムを作りました。古代人は精霊や動物霊をトーテムに宿らせて、そこから力を得ようとします。元を創ったチンギス・ハーンのトーテムが青い狼という話は有名です。人とトーテム、自然が結びついて神々が誕生します。それが部族のシンボルとなる。ギリシャなどは各都市ごとに自分たちの神を信奉しています。古代の日本もギリシャ同様、多神教を信奉します。

       

(2) 観念的宗教の出現

人類の進化はシュメール人が文字を発明した時から始まります。文字は究極のシンボルと言ってもいいでしょう。文字には音声文字と象形文字があります。世界のほとんどの地域は音声文字を使用していますが、中国は象形文字を使う。当初、中国各地の文字はバラバラでした。それを統一したのが秦の始皇帝です。
文字の使用が始まると法律や戒律ができます。紀元前1000年頃の「モーゼの十戒」は有名ですが、この時期、東洋はまだ呪術的。亀の甲羅を焼いて、ひびの入り具合によって行動を決めていた。古代国家の殷の王は歯が痛むのを止めるために羌族を100人生贄にしたという記録もあります。王権、文字の登場とともに戦争も激化します。紀元前1000年頃から人は権力や戦争を覚えて残酷になった。その実情を憂いて登場したのがブッダ、ソクラテス、孔子です。彼らの目的は残酷な行為を止めるかでした。その後、キリストが出現し、「絶対的な非戦」を説きます。自分が十字架に掛けられて処刑されても、その信念は曲げなかった。今でこそ生贄は野蛮であると考えられていますが、昔は神と一体化できると考えていたので、自ら生贄になることを希望することもありました。その代表がイエス・キリストです。宗教にはシンボル、偶像化する宗教と偶像を否定する宗教があります。前者の代表はエジプト、ギリシャの神々、キリスト教や道教、後者の代表はユダヤ教、仏教、イスラム教です。一般的に仏教は偶像化の宗教だと考えられていますが、あれはヘレニズム時代、ローマ彫刻の影響を受けたせいで、もともと仏像は存在していません。偶像化された宗教は女性的、されない宗教は男性、観念的です。女性的な偶像崇拝が崇拝される時代、科学的な進歩が滞る。キリストが生きていた頃、ローマ人はギリシャの神々とともに、ゾロアスター教のミトラスを信じていました。ミトラスは牛ですが、その象徴は「月」。西洋から日本に伝来したシンボルは十字架と三日月で、広隆寺にある弥勒菩薩の足は十字架、指は牛の角、三日月を象徴しています。ですから十字架も三日月も古代古代から日本に伝来していた。京都の八坂神社の御神体、牛頭大神は明らかにミトラス。ミトラス教を信仰していたローマ時代の方が科学的で、キリスト教を信仰していた時代は非科学的です。皮肉なのは科学の時代の方が戦争が頻発し、非科学の時代の方が平和です。
15世紀、金属加工職人だったドイツ人のヨハネス・グーテンベルグ(1398年〜1468年)が1445年頃、活版印刷の機械を作って宗教革命が起こります。それまで極秘とされてきた「聖書」が一般の人でも読めるようになりました。それで近世への扉が開かれる。大航海時代、日本にも西洋文明が流入して近世が始まり、それが織田信長、豊臣秀吉、徳川家康によって完成された。戦国時代、各大名や武将たちは自己主張をするためにいろいろな努力し、他の武将より戦場で目立つために兜や甲冑に意匠を凝らします。旗指物、家紋も使用され、日本人はデザイン化されたシンボルの有効性に気づきます。それを統一したのが徳川家です。水戸黄門では「葵の紋」が権力の象徴。紋は世界中にありますが、それは古代から続くトーテムや記憶をシンボライズしたものです。

         

(3) 近・現代のシンボル

江戸時代に入り、平和な時代になると庶民もシンボル、ブランドに興味を示します。江戸時代の出版物では世界でも類をみないほど多彩です。西洋では本は貴重品だったのですが、江戸時代の日本人は寺子屋で文字を習っていたので、一般庶民でも本が読むことができました。江戸時代の識字率は世界最高。庶民は浮世絵やかわら版から情報を得ます。浮世絵や出版物が流通すればするほど、葵の紋の威力が薄れ、市民社会が発展した。各家庭に幸運のキャラクターである恵比寿・大黒の像が祀られ、歌舞伎役者絵が流行します。儒教を中心とした李朝などと比べると、多神教で道教的な日本人は享楽的だった。江戸の町には男性・女性器を模した石像がいたるところにあり、若い女性がうれしそうに男性器の石像に触れているのを、幕末、日本に来た西洋人が興味深く紀行文として残しています。
明治維新の後、西洋のキリスト教文化が入ってくると、日本人は急に禁欲的生活を強いられます。性器の石像は一気に町から取り除かれ、後に維新の英雄、神の銅像、聖人の像が建てられ、享楽的な江戸のシンボルは禁欲的な西洋文明、英雄の銅像に駆逐されてしまった。この時期のシンボルは「明治天皇の肖像画」と「旭日旗」です。日本人は富国強兵の号令の下で帝国を信奉する。韓国や中国人は日章旗を見ると、怨念的な感情が呼び覚まされるようですが、この時期の最大のシンボルはナチスの鉤十字。ナチスはシンボルの使い方が非常に上手でした。太平洋戦争が近づいてくるとシンボルよりもスローガンが中心となります。
太平洋戦争に負けた日本人は消費・物物質的なアメリカ文化を受け入れ、何度かの高度経済成長と共に消費社会を受け入れた。音楽、セックス、映画が普及すると、カリスマ的な人が時代のシンボルとなります。ケネディやビートルズなどが時代のシンボルとなります。マリリン・モンローはセックス・シンボルと言われています。アメリカ文化の流入とともに、アニメーションのキャラクターが登場します。その代表がミッキー・マウスです。最近は、クマモンが人気ですが。現代は映像文化が時代のシンボルを作る時代となりました。
一般的にはネズミや猫はシンボル化しやすい。日本人は十二支などの動物をデザインに利用します。クマはちょっと意外。社会が均一化されると、異界キャラが登場します。70年代のヒーロー、ウルトラマンやゴジラよりも、現在の異界はキティーちゃん、クマモンです。その頃、ファースト・フードが登場して、マクドナルドなどの企業ロゴが目立つようになります。企業はキャラクターを導入して企業イメージの定着化を図る。80年代になると広告にアクリル板や巨大写真が使われるようになり、広告自体がシンボル化される。「おいしい生活」ですね。
最近、インターネットの普及によって、従来のマス的なシンボルが崩壊して嗜好の個別化が起こっています。音楽業界でも、ユーミンの歌など、時代を象徴するメガヒットがなくなった。情報の個別化が起こす現象ですが、現在は情報よりも情報機器の方に関心が集まるようになりました。冷凍食品もそうですが、科学技術が衣食住に大きな影響を及ぼしています。このままいくと、ロボットの親が人間の子を育てることになるかもしれません。保育器で赤ちゃんを育てるマザー・コンピューターが出現する。「Xファイル」の世界だ。
人間はシンボルというか、イメージの摺りこみによって性格が決定します。それは太古の昔から変わっていません。我々は環境から人格を形成するのですが、現代社会は圧倒的に情報によって人格形成がなされる。古美術の世界でもインターネットの出現によって大きく変わりました。収集家は物よりも情報を収集している感じがする。偽物の露出度が格段に増加し、流通して売買されていれば偽物を本物と勘違い人が増えた。古美術の世界でもブランドの刷り込み現象が起きています。
偽物のマザーの出現によって、収集家の目も曇ってきた。いずれにせよ、親の背中を見て子は育つ。偽物の世界からは偽物の感性しか生まれませんが、これも人間の宿命です。ハムレットではありませんが、「生きるべきか、死ぬべきか」「買うべきか、買わないべきか」、迷うのが人間です。それで葛藤を克服するために人間は哲学や思想を生み出します。

             

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